140ss
Capita*Princess|Hearts*PrincessPrince*Princess


▼Capita*Princess

「長命の一族とは総じて肉体が頑丈に出来ているものだ。
 一介の生物と比べ物にならない期間活動するため、そう安易に壊れ朽ちるような構造で生まれてはいない」
辛うじて腕を動かし彼女の頬へと伸ばし、指先が赤く濡れていることに気付き下ろした。細く息を吐き出す。
「何故、貴方が痛そうな顔をする?」

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足元に目を落とすと眩暈がした。
ムーンロードの眩い光を踏むのは、星を踏み砕くような心地がする。
「大丈夫ですか?」
不安げな声に小さな掌を握り返すことで応える。彼女が背後を振り返り、私はその手を引っ張り空を渡る。
トロイメアの姫と生きると決めたからには、星を殺していかなければ。

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灯りの落とされた部屋に月光が差し込む。キャピタさんの薄い唇が離れると、私は彼の胸へ顔を埋めた。
嗅ぎ慣れた煙草の匂いが今はしない。大きな掌が労わるように私の掌を包んで握り締め、幸せに声がこぼれる。
その指先に魔除けの色は施されておらず、血の通った薄桃色をしているのがやけに目についた。

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「貴方は先に行きなさい」
そう言ってキャピタさんが私の背中を押す。
「私も残ります」
黒い靄の大群が押し寄せてきているのが遠目に見えた。心臓が早鐘を打つ。
キャピタさんがあやすように私の頭を何度か撫でる。
いつもと変わらない涼しげな瞳を見つめれば、彼が優しく微笑む。
「後で拾いに来て欲しい」

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「きゃぴたさんに抱きしめられてる時が一番しあわせです」
彼女が私に凭れかかりふわふわ微笑む。
それならばと体温の高い体を抱きすくめれば「ふふ」と幸せそうに声を漏らし私の胸へ顔を埋める。
平常より幾分もくだけ甘えるこの様子が彼女の本性なのだろうかと、私はワインの空瓶を眺め思考を巡らせた。

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「キャピタさん頭を撫でるの好きですよね」
彼がふいに私に触れるのは決まって頭のてっぺんだった。
キャピタさんが私の髪を指で梳きつつ考え込む。
「正確に言うなら、撫でた際に顔を綻ばせる貴方を見るのが好きなのだろうな」
ふっと吐息と共に優しく瞳を覗き込まれて、私は言葉に詰まってしまった。

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「キャピタ様!こちらです」
店主に促され衣装の並ぶ店内を進むと、仕切りの奥にフォルスト衣装に身を包んだ姫がいた。
彼女が鮮やかな模様の裾を摘んでおずおずと私を見上げる。
不思議と思考が働かなくなった。
胸に込み上げる感情に戸惑いながら、かろうじて唇を押し開く。
「似合っている……とても」

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頭を撫でたり肩を抱き寄せたり抱き締めたり、キャピタさんは思慮深い人だけど意外と遠慮なく私に触れてくる。
不思議に近しい距離感は何だかくすぐったくて嬉しい。
そんな彼の手も、夜闇に沈んだ部屋では確かめるように壊れ物を扱うように私の肌をなぞる。
その度に私は愛しさで胸がつまってしまう。

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夜布団の中で耳にするキャピタさんの声は一際心地よくて、もっと話をしたいのにどんどん瞼は重たくなっていく。
「無理せず眠りなさい」
「でも」
彼の大きな掌に頭を撫でられればもう何も考えられない。
こめかみに口付けを受け「おやすみ」と囁かれ、私は勿体ないような気持ちで眠りの世界へ向かう。

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微かな振動に目を開ければ、姫がベッドから降りようとするところだった。
思わず彼女の手に触れると驚いたように振り返る。
「すぐ戻ります」
ゆるく指を絡めほどくと彼女は扉の向こうへ消えた。
数分後、毛布に戻ってきた彼女の体は外気で冷えていて、すぐさま抱き寄せれば姫は笑って「温かい」とこぼす。

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キャピタさんのリードは完璧で滑るようにステップを踏めた。
「十数年ぶりだが何とかなるものだ」
安堵したように彼が呟く。
その言葉で綺麗な女性と踊るキャピタさんを想像してしまって心に翳が差したのだけど、
表情の変化をすぐ見抜かれ心配されてしまえば私の憂いなんてワルツに溶けて消えてしまう。

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4つのピアスホールを指でなぞられると不可思議な感情が背骨から這い上がるのを感じた。
「痛くなることないんですか?」
「……あぁ」
他人に耳を触られるのは初めてで、このような情感を抱くものだとは知らなかった。むず痒くも心地がいい。
同じ感情を味わわせたくて、私は彼女の耳をそっと指で挟む。

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並んで歩いていると姫の顔が随分下にあるように思える。表情が窺えない上に声を聞き漏らしてしまうのは口惜しい。
彼女が紡ぐ言葉を聞き逃さぬよう屈んで耳を寄せるよう心掛けていると「最近なんだか近いですね」と面映ゆそうに笑われた。
成程、と思う。
私はもう少しの間でも、遠くにいたくないらしい。

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キャピタさんは食事をとる所作も品があって綺麗。一緒に夕食をとった時その光景を見て溜め息が出たほどだ。
でも今、目の前の、首を傾げつつ綿あめを頬張る姿はとても可愛い。
「貴方も食べるといい」
私が口にしやすいよう下へと差し出された綿あめに、甘くやわらかな気持ちを覚えつつ唇を寄せる。

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姫がとある露店の前で立ち止まる。
覗き込めば手持ち花火のセットを見ているようだった。
「1つ買ってみるとしよう」
「いいんですか」
「……あぁ」
彼女の表情から察するに、前の世界で思い出があるのだろう。
微笑む彼女を見ればその話を聞いてみたいという感情と、ほんの僅かな息苦しさを覚えた。

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小銭を確認してたらバラ撒いてしまって、慌てて拾っていると通りすがりの女性が一緒に拾ってくれた。
栗色の髪に白い肌の、水色の着物がよく似合う可愛い人だ。
お礼を伝えれば彼女は微笑んで会釈し、そのまま人混みへ紛れていく。
去り際なぜか煙草の香りが漂い、そのそぐわなさに不思議な気持ちになる。































▼Hearts*Princess

花を贈るといいというマッドハッターさんの教え通り真っ赤な薔薇を買った。
まぁ情けないことに月末の俺の懐では3本が限界だったんだけど。
「ほんとはもっとすげー花束にしたかったんだ」
「私はこの花束好きだよ」
幸せそうに花弁に鼻を寄せる姿は今日も世界一可愛くて、俺は叫びたい気持ちになった。

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幸せそうに眠る姫の顔を眺めてたら、胸がふわふわくすぐったくなってきた。
日付が変わるまで誰かと一緒に過ごすなんて初めてだからか?まぁ寝てるけどさ。
疲れたらベッド貸してやると言ったのは俺だから、実際眠っているこいつに非はない。
そこで俺はふいに冷静になった。
俺、どこで寝ればいいんだ?

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「くまさんです!」
スマホを覗いたクロノが声を上げた。
夜のパークを背景に俺と姫とくまのぬいぐるみの3ショット。
「大事にしてくれてるかな」
素直なあいつのことだから俺が言った通り毎朝くまに挨拶してる気がする。
想像してる内に顔や胸の辺りが変になったので机に突っ伏したらクロノに本気で心配された。

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清楚なドレスを纏いティアラを冠したあいつは誰が見ても綺麗で可愛いお姫様だ。
パレードの最中、俺は何度も目で追っては騎士として警戒せねばと慌てて顔を背けた。
でも周囲に気を配れば皆あいつを見ているし見惚れてるなっていう男もいて。
何だか面白くない。
俺だってずっとあいつを見ていたいのに。































▼Prince*Princess

小さな一軒家の窓から灯りが漏れている。それを目にすると自然と歩調は速まった。
漂う夜闇の空気に醤油の煮立つ匂いが混じり、胸が柔く締め付けられる。
引き戸をカラカラ鳴らし廊下を進み台所の暖簾を潜れば、味見していた彼女が振り返り「おかえりなさい」と微笑む。
「夕食は何でしょう、奥さん」

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楽しげな声に顔を上げると、遠方で女子供が寝具の踏み洗いをしていた。
トロイメアの姫が小さな子の手を取り、素足を躍らせながら仲陸ましげに笑い合う。その眩しさに目を細める。
「ライアン様?」
不可解な様子で民がこちらを見ていた。ひとつ咳払いをする。
「……すまない、もう一度話してもらえるか」

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最後に浴衣の帯を結んで、出来上がったことを告げる。
「帽子屋さん着付けも出来るんですね」
お嬢さんが振り返って帯を確認し「玉手箱」と顔を綻ばせ、私はほくそ笑む。
「独学ではありますが……役に立つ時が来て良かったです」
未だ潤んでいる瞳を見つめると、彼女は恥じらいつつ唇を尖らせた。






















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